エッセイ連載開始!

平成29年、J’z BARが20周年を迎えるにあたり、その間にご来店いただいたお客様の中でも、特に印象に残った、12人の素敵な女性のお話を、書いてみたいと思いました。 タイトルは、【Jazzy Lady】 としました。
4月から翌年3月まで、月別にジャズのメロデイーにのせて、12話にまとめました。20周年には間に合いませんでしたが、去年書き上げる事が出来ました。
それを、作家の浅岡純一郎氏に12話のお話に、まとめていただきました。
コネを使って、何社かの出版社に話してみましたが、本にはなりませんでした。
理由は、窓を開けたら突然別世界が展開するような刺激がないと、ダメだという事でした。

読みながら、ニヤッとしたり、うーん?、そうだ!、ホントかよ、ウソだろうとか、若い頃を思い出しながら、のんびりと楽しめるような話があってもと、思いますけど。

今回は第12話  Stardust です!
日曜日の午後にでも、チビリチビリ飲りながら、ご笑読ください!
 
なお、タイトル画、挿絵は、MINE画伯にお願い致しました。他にもお世話になった方々、ありがとうございます!
            J'z BAR 野村 純 


Jazzy Lady

浅岡純一郎

挿絵:MINE Hideo

March : Stardust  New!
February : What's new 
January : I wish you love 
December : Yesterdays 
November : That Old Feeling 
October : Body and soul 
September : Days of wine and roses 
August : On a clear Day  
July : The party's over
June : Red roses for a blue lady  
May : Pennies from heaven 
April : Cattage for sale








 
 

March

Stardust

Sprizer / Sloe gin Fizz


 

あの日は朝刊に、某有名大学の卒業式が盛大に行われたとの記事が載っていました。多勢の若者の爽やかな笑顔が、溢れている写真でした。若いって素晴らしいなあ、羨ましいなあと、思わず祝福したくなりました。
一方、増々寿命が延びるでしょうし、これから何十年も生きなきゃならない若者も大変だなあと。ガンバって下さい!
 私の店でも今月は、定年退職で現役を卒業する方が、何人かいらっしゃいます。そういう方々を、私はいつも祝福するのです。おめでとうございますと。御苦労も沢山なさった事でしょうけど、大過なく無事に卒業できたという事は、素晴らしい事だと思います。
卒業後は皆さんそれぞれで、ある方は、しばらくはゴルフ三昧だ。ある方はこれからも、毎朝ネクタイを締めそうだと。また、ある方は、女房孝行だと。皆さん、未経験の分野で、戸惑っていらっしゃるようです。
 その日も、後輩からもらった花束を持った卒業生が、寄ってくれました。例によって、おめでとうと申し上げましたら、実は心配な事があるのだとの事でした。もうすぐ退職金が出るのだとの事。何が心配なのですか?と、お尋ねしたところ退職金が入った後に女房が、離婚すると言い出すか、言わないかで、これからの俺の人生が決まるんだと。
 そのお客様がお帰りになって、現役時代の過ごし方によっては、いろんな心配事があるんだなあと、思った時でした。彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
「カウンターの下に、フックがありますので宜しければ、ご利用ください」
  * * *
  * * *
「どうぞ。チョット熱いです」
ありがとうございます
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
私、余り飲めないので、軽めのさっぱりしたカクテルを、お願いします
「かしこまりました」
  * * *
  * * *

「お待たせしました。スプリッツアーです。白ワインをソーダで割りました」
ありがとうございます
美味しい
「お口に合って、良かったです」
「お食事はお済みですか?」
いいえ。行きたいお店があって、お店の前まで行ったのですけど、入りそびれて・・
「そうですか。混んでいたのですか?」
いいえ。昔、お付き合いしていた彼が、好きだったお店で、2人で良く行った、ステーキハウスなんです
「ホー」
彼は鉄板焼きのステーキが大好きで、そのお店のガーリックチップが美味しくていつも最後はガーリックライス
「それは、それは。美味しそうですね。ガーリックチップも、お店によってかなり違いますからね」
私、静岡の旅館の娘なんです
「ホー。そうですか」
1週間前から、この街に遊びに来ているの
「お一人で?」
はい。昔よく彼と二人で、歩き廻っていたので、とっても懐かしいわ
「その当時と、変わってないですか?」
えー。お店の看板は所々、変わっている気もするけど
私、高校を卒業して、アメリカの大学へ、留学したんです
「アメリカへ行っていらしたのですか」
子供の頃から、旅館を継ぐような環境で育てられていたので、出来る内に、やれる事はやろうと思って、アメリカに行ったの
「なる程。お気持ち、分ります」
楽しかったわ。家や、親戚のしがらみがないし、毎日何がしかの発見があって、勉強も充実していて
2年ぐらいしたら、ボーイフレンドも出来て。毎日の様にパーティ―で
「それは、それは。楽しかったでしょうネ」
最初の内は、これが底抜けに明るくて、自由なアメリカの、学生生活なのだと思ったの
でも、あちらでは、ボーイフレンドが出来るとすぐに、ステディーな間柄みたいになって。お友達もそれを前提として、お付き合いするの。あちらの習慣なのでしょうネ
パーティーへ行っても、学校でも、そういう風に見られて・・・
「そういえば、あちらの青春物の映画なんかにも、そんなシーンが、よく出てきますネ」
段々、窮屈な感じになってきたの
「なる程。そうかもしれませんネ」

大学を卒業して、日本に帰ってきて、帰国子女枠と、若干のコネがあって、大手商社に就職したの
「そうですか」
入社した時に、新入社員歓迎会があって、その余興で、イス取りゲームがあったの。ご存知?
「イスが常に一つ足りなくて、最後に一人残っちゃうやつですよネ」
そうそう。そのゲームの何回目かで、イスの前に立ったら、同時に座ろうとした人が居て。その人が私に、イスを譲ってくれたの
それがご縁で、その彼と、お付き合いが始まったの
「そうですか。優しい方のようですネ」
えー。とっても
「何か、お飲み物、お作りしましょうか?」
えー。お願いします

  * * *
  * * *
「お待たせしました。スロージンフィーズです。フルーティーなカクテルです」
ありがとう
美味しいワ
「ありがとうございます」
彼のお家は、郊外だったんだけど、その当時は、毎朝私のアパートの前に、車を止めて、出勤する私を、待っていてくれたの
「へえー。毎朝ですか。それは、それは」
いつも車の中で、新聞を読みながら
ある日、いたずら心がわいて、見つからないようにそっと、車の横を通り過ぎて、歩いて行ったら、バックミラーで私を見つけて、急発進でバックして来て。さすがに、怖い顔していたワ
「オヤオヤ。可哀そうに」
いつも、会社の1つ手前の信号で、私は降りていたの
夜は一緒にお食事をして、彼はジャズが好きで、お酒も好きで、よくいろんなライブハウスや、行きつけのピアノバーへ連れて行ってくれたワ
アメリカへ留学していた頃を思い出したりして、楽しかった
「ジャズがお好きな方ですか。いいですネ。当店にも来てくだされば、よろしかったのに残念です」
そう言えばあの頃、彼、毎朝のお迎えの車を、夜はどうしてたのかしらネ
「そうですね。不思議ですネ」
入社して3年位経った頃、実家からどうしても帰って来いって言われて。退社して実家に戻ったの
「そうですか。ご両親も色々と、御心配だったのでしょうネ」
それからは、東京、静岡、その他、色んな所でデートしたワ。実家の温泉場では逢えないので、温泉も色んな所へ行きました。楽しかったワ
今思えば、私にとって勉強になったかも
「なる程。そうですネ」
彼も2年前に、お父様の会社に戻る事になったの
「そうですか」
その時に、彼のお家から、正式な結婚のお話をいただいて・・・。でも私の両親が、どうしても許してくれなくて。結局、彼とお別れしたの
「それは、それは。お淋しかったでしょうね」
  * * *
  * * *
ひと月ほど前にヨーロッパで、飛行機の墜落事故があったでしょう?・・・
「ええー。東京発の飛行機で、日本人の方が沢山乗っていらしたとか」
「えー!?」
そうなの。その搭乗者名簿の中に、彼の名前があったの。私は気づかなかったけど、お友達からお電話があって、知ったの
「それは・・・。何て言ったらいいか・・」
それも彼、新婚旅行だったの
「!・・・」
私と結婚していたら、彼は亡くならなかったのかもとか・・・。頭の中が、真っ白になって
「そうでしょうネ。お気持ち、お察しいたします」
好きな人とのお別れは、沢山あると思うけど、その方が何処かで同じ空気を吸っているのと、いないのでは、淋しさが全然違う気がします
「その通りだと思います」
この一週間、昔彼と一緒に過ごしたこの街を味わいたくて、歩き廻って。そして、今夜が最後の夜。やっぱり、空気が前とは、違うような気がするワ。でもそれも、しょうがないわよネ
「色々、思い出があって、お淋しいでしょう」
ええー。でも・・・
「はい?」
おかげ様で、少し気持ちが落ち着いてきたような、気がします
明日から、女将修行、頑張ります
「頑張って下さい。いつか私も、おじゃましたいと思います」
是非、いらして下さい。それまでに、私流のおもてなし方を身につけて、お迎えいたします
「必ず、お伺いします。楽しみです」
  * * *
  * * *
「一曲、唄わせて下さい」
お願いします
 
 


Stardust

 

 
And now the purple dusk of twilight time
Steals across the meadows of my heart
High up in the sky the little stars climb
Always reminding me that we’re apart
You wandered down the lane and faraway
Leaving me a song that will not die
Love is now the star dust of yesterday
The music of the years gone by
Sometimes I wonder why I spend
The lonely night dreaming of a song
The melody haunts my reverie
And I am once again with you
When our love was new
And each kiss an inspiration
But that was long ago now my consolation
Is in the star dust of a song
Beside a garden wall when stars are bright
You are in my arms
The nightingale tell his fairy tale
Of paradise where roses grew
Tho’I dream in vain
In my heart it will remain
My star dust melody
The memory of love’s refrain
 
(Lyrics by Mitchell Parish) 

 
 


Sprizer

大きめなワイングラスに良く冷えた白ワインを注ぎ、ソーダを加えてステアーする。口の中で、白ワインが弾ける。アルコールに弱い女性には最適
 
 

Sloe Gin Fizz

スロージン、レモンジュース、シュガーシロップをシェイカーでシェイクする。タンブラーに注ぎ、ソーダを満たしてスライスレモンとチェリーを飾る。
 
 

 

 
 


February

What's New ?

Side car / Lady be Good

あの日は朝からとても寒くて、いつもより早く起きてしまいました。俗に言う、しばれる感じで、雪が降り出しそうな寒さでした。

そうだ!昼飯は、一人シャブシャブにしようと家を出ました。寒さに弱くて、特に隙間風とか、首筋の冷たい風とかが、耐えられないのです。だからスキーなんか、生まれてこの方、やったことがありません。
スキーと言えば、大学の最後の冬に、仲間からスキーに誘われたんです。一回位付き合えってしつこく言われ、何も準備しなくていい、身体ひとつで来いとの事でした。席も確保しておくからと。
酒だけ持って、駅へ行ったんです。皆な喜んでくれました。発車までの間、皆がスキーの話で盛り上がっているのを聞いているうちに、明日から皆なの足手まといになって、その上馬鹿にされるのかと思っちゃって、発車5分前に、トイレに行くと言って、そのまま帰って来ちゃいました。
翌日電報が来て、「金送れ」。そんなことがありました。
 
オープンしてすぐに、何年かぶりのお客様がいらっしゃいました。大病をして、親元に帰って長い間療養生活を送っていたとの事でした。昔、毎日の様にいらしてくれていた頃のお話で盛り上がっていましたら、これまた、偶然にもその当時店で働いてくれていた女の子が、遊びに来てくれたのです。
お客様も大変喜んで、3人で昔話に花が咲きました。その内、2人で何か食べに行こうと言って、お帰りになりました。あれ?2人が今日来たのは、本当に偶然だったのかな?と、思った時でした。彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます」
「どうぞ。チョット熱いですよ」
「お飲み物はいかがいたしましょう?」
えーと。何かブランデーベースのカクテルを
「かしこまりました」
 
 


 * * *
 * * *
「お待たせしました。サイドカーです」
ありがとうございます
「珍しいです。ブランデー系のカクテルをご注文なさる方は」
そうですか。私お仕事で、飲み慣れているので
「あ・・、そうですか。この頃、ブランデーを飲む方が、少なくなってきました。何年か前までは、沢山いらっしゃいましたけど」
私、お店でお姉さんの、本当のお姉さんじゃないけど、お手伝いをしているんです
「なる程。それで良くブランデーをお飲みになるのですか」
えー。お姉さんのお客様達は、皆さん、ブランデーをボトルキープなさっているの
今のお仕事、毎日忙しくって、緊張感があって、楽しいって言うか、充実しています。お姉さんも厳しい人だけど、私尊敬しているの。お姉さんも本当に私の事を可愛がってくれて、大事にしてくれているの
「それは、それは。良い先輩に巡り合えて、良かったですね。羨ましい」
ある日、お姉さんのお客様と、いつもご一緒にいらしてるお客様に、お食事に誘われたの
勿論お姉さんに相談したら、大事なお客様だから、失礼の無いように行ってらっしゃいって言ってくれたので、ご一緒したの
「そうですか。でもそれって、良くある事ではないのですか?」
そうなのだけど。彼はそれだけでは、済まなかったの・・
実は私、数年前からある方のお世話になっていたの。一緒に住んでいた訳ではないけど、時々二人で過ごしていたの
「そうですか」
その方も、ずうっと私の事を大事にして下さって。いつも、どんな時でも、君の好きなようにしなさいって、言って下さる方なの
そんな事もあって、最初は、彼とのお付き合いは、お断りしていたのだけど
ある週末の金曜日に、車でお店に迎えに来て下さって、これからドライブしよう。朝焼けの海を見に行こうって
「ホー!よっぽどお客様とご一緒に居たかったんですネ」
私の家に寄って、着替えて、彼の車に乗ったの
そしたら彼が言うの。疲れているだろうから、このタオルケットをかけて、おやすみなさいって
「優しい方ですネ」
 

 
私、すぐ眠っちゃって。目が覚めたら、海岸の広い駐車場だったワ。彼が用意してくれていた洗面道具で、顔を洗って・・・
太陽が昇ってくる朝の海は、とてもきれいで、感動しました
「何か、素敵なB.G.M.でも、準備してあったのでは?」
ウフフ・・。それは無かったワ。波の音だけが聞こえて、とてもロマンチック
な気分になって、しばらく2人で、黙って海を眺めていたワ
「誰も居ない海と、波の音、広い駐車場に車一台。いいですネ」
砂浜へ降りて行ったらおばさんが、屋台でハマグリを焼いていたの
「ホー!美味しそうですネ」
彼が注文して、やっぱり、本場物は美味しいネーって、食べていたら、おばさんが言うの。このハマグリは、ここで取れたんじゃないよって
えー!て、2人で驚いていたら、おばさんが又言うの。これは輸入物だって。
大笑いして。でも、美味しかったワ
「楽しそうですネ」
それから、一日中ドライブして、海辺のホテルに一泊して・・・。楽しかったワ
「もう一杯、お作りしましょうか?」
ええ。お願いします
  * * *
  * * *
「お待たせしました。これも、ブランデーベースの、レディ・ビィ・グッドです。
どうぞ」
ありがとう
美味しいワ
1年位経って、彼が離婚したの。前から、ご夫婦で話し合っていたみたい
「ホー…」
そうしたら、すぐに彼が、一緒に暮らそうって
小さなお部屋を、私の実家のすぐそばに借りて、引っ越したの
「ご実家のそばにですか?」
実は子供の頃に、母が離婚して、弟と三人で暮らしてきたの
「なる程。お母様の面倒をみたかったと?」
そんな、大袈裟な事じゃないけど
母一人で、私を育ててくれて。私が何をしても怒った事が無いの。どんな時でも。私が困った時は、必ず助けてくれたワ
「お客様も、だいぶヤンチャだったんですネ」
本当に、母には感謝しているワ。今でも、勝手な事ばかりしているけど
彼と一緒に住み始めた時に、さっきお話した、お世話になっていた方に、ご報告をと、ご挨拶に行ったの。そしたら、君が決めたのなら、そうしなさいって。
そして帰り際にその方、何て言ったと思います?
「さあ・・?」
帰りたくなったら、いつでも戻ってらっしゃいって
「へえ。大人の方ですネ」
そのうち、お姉さんに彼と住んでいるのがバレて、こっぴどく叱られて・・・
彼もお姉さんに呼び出されて、ルール違反だって怒られたみたい
「なる程」
でも彼は、僕は本気で一緒に居たいんだって言ったらしいワ
私、お仕事が好きだったので、彼に何と言われても、お店だけは休まなかったの
「偉いですネ。お姉さんも、お仕事も、大好きだったのですネ」
ええ・・・
数か月前に、3歳年下の彼と、知合ったの。時々ランチを一緒にしているのだけど。この頃、思っているの・・
「ホー。何をですか?」
母にも、お姉さんにも、お世話になった方にも、そして今一緒に居る彼にも、 私は、沢山の愛をいただいて、どんなに感謝してもしきれない位だって。こんな幸せな事は無いって
「そうですネ。でもそれはすべて、お客様が魅力的で、素直な方だからじゃないでしょうか」
でも、幸せすぎて、これで良いのかしら?って
そんな風に考えている内に、今度は、私の方から、一生懸命、誰かを愛してみたいと、思い始めたの
今まで周りの人たちに、手を差し延べていただいて、生きてきた私に、そんな事が本当に出来るのかっていう、不安もいっぱいあるし、これから勿論、居心地の悪い事が、沢山起きると思うし。もしかしたら、上手くいかないかもしれない
でも、これからの私の人生を、彼の為に生きてみたいと
今までお世話になった方々に、感謝しながら・・・。我儘かもしれないけど・・・
「そうですか。決心なさったのなら、前向きに。決して悪い事ばかりではないと
思いますし、周りの皆さんも、温かく見守って下さると、思いますヨ」
ありがとう
  * * *
  * * *
 
「一曲、唄わせて下さい」
お願いします
 
 


What's New ?

 

 
What’s new ?
How is the world treating you?
You haven’t changed a bit
Lovely as ever I must admit
What’s new ?
How did that romance come through?
We haven’t met since then
Gee ! but it’s nice to see you again
What’s new ?
Probably I‘m boring you
But seeing you is grand
And you were sweet to offer your hand
I understand
 
A dieu !
Pardon my asking what’s new
Of course you couldn’t know
I haven’t changed I still love you so  
 
(Lyrics by Johnny Burke) 

 
 


Side Car

ブランデー、クアントロ、レモンジュース、氷をシェイカーに入れて、シェイクする。
カクテルグラスに注ぐ。
 
 

Lady be Good

ブランデー、ホワイトペパーミント、スイートベルモットをシェイクして、カクテルグラスに注ぐ。
大人の感じ。
 
 

 

 
 


January

I Wish You Love

Margarita, Tequila Sunrise

あの日は、鏡開きも終わり、正月気分も抜け、普段の生活パターンに戻る頃でした。
今年の鏡開きは沢山のお客様が、お汁粉を食べに来てくれて、嬉しかったです。お汁粉も美味しいですが、口直しの塩昆布や、お新香が、たまりませんね。
やっぱり、日本酒ですかね!
その日の最初のお客様は、いつもお二人でいらっしゃる、仲の良い若いカップルでした。お話をしていると、突然彼が「僕達今年、結婚するんです」とおっしゃって、とっても幸せそうに、彼女を見つめるのです。
思わず、こりゃあ新春(ハル)から、縁起がいいワイと、私も嬉しくなって、シャンペンで乾杯して、「星に願いを」を、唄わせていただきました。
どんな結婚式をと、お聞きしましたら、シャレたレストランで、お友達と、会費制で楽しくやりたいとのお話でした。良いですね。でも、ご両親も、大事にして下さいねと、思わず余計なことまで、言ってしまいました。
楽しそうに、新婚旅行のお話をして、お二人、手をつないでお帰りになりました。
結婚か・・・。俺も色々あったなあと、思った時でした。彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
こんにちわ!じゃないわね、こんばんわ
「こんばんわ。どうぞこちらへ」
「この業界では、この時間帯は、おはようございますですので、あまり気になさらずに」
おはようですか?何か、これから楽しい事が起こりそうで、いいわね
「そうですか」
「カウンターの下に、フックがありますのでどうぞお荷物を、お掛け下さい」
本当だ。ありがとう
「どうぞ。お熱いですよ」
本当、熱い!とても良い香りがするわ
「ありがとうございます」
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
ええと,今日は私にとって特別な記念日なの!だからこれからずうっと心に残る様なカクテルを、お願いします!
「かしこまりました」
 


 * * *
 * * *
「お待たせしました。マルガリータです。暑い日差しの中で、おもいっきり両手を上げて、{乾杯!!}という感じですかね」
ありがとう!本当に今日は、そういう感じなの
美味しい!サルー
「サルー!ありがとうございます」
「今日は何か、素適な事が、あったようですね?」
そうなの!息子が高校受験で、彼の希望していた学校に、受かったの!
「それは、それは。おめでとうございます」
ありがとう
それも、国内でも有数のサッカーの名門校で、息子がこれからサッカーをやり続ける為にも、どうしても入りたかった学校なの
「ホー!息子さんは、サッカーをやってらっしゃるのですか?」
ええ。小学校から始めて、中学に入って結構、注目されていたの
「そうですか。入学が決まって、良かったですね。おめでとうございます」
ありがとう!今日はとっても嬉しくて・・・
私、15 ,6年前に仕事でロンドンに赴任したの
「ホー。そうなんですか」
ロンドンへ行ってすぐに、英会話学校へ入ったの。会社の決まりでもあったので。そこで、同じ教室に来ていたインド人の彼と出逢ったの
「ホー」
彼、物静かで、他のチャラチャラしている外国人とは、全然違っていたワ
でも、何よりも素敵だったのは、彼の神秘的な眼差し。見つめられると、吸いこまれそうで・・・セクシーだし
そして彼も、私を気に入ってくれて、すぐにお付き合いが始まったの
「なる程、なる程」
ところが、付き合い始めて半年位経った時に、突然彼が居なくなっちゃったの
「へえー。それは、それは。で、どうなさいました?」
必死にロンドン中を探し廻わったワ。でも、見つからなかったの
「そうですか。困りましたネ」
実はその時、この子がお腹にいたの
「へえー、そうなんですか。彼はその事を、知っていたのですか?」
まだ、話してなかったの
「それは、大変でしたネ」
色々考えたんだけど、最終的に、日本で産もうと決めたの
「お悩みになったのでしょうネ」
私、子供の頃から、母と二人暮らしだったの。で、母に相談したら、私も手伝うから、
帰っておいでって
母には本当に、世話になったワ。感謝している
「もう一杯いかがですか?」
えー。お願い
  * * *
  * * *
「お待たせしました。テキーラサンライズです」
ありがとう。きれいネ
息子の幼稚園の時の写真、見る?
「はい。是非!」
チョット待ってネ・・・
これ!
「わあー!可愛いですネ!モデルになれそうですネ」
そういうお話もあって、雑誌のモデルも、何回かやったの。その時の写真、見る?
これ!
「ワー!恰好いい!絶対、受けますヨ」
私もこれで、彼は大丈夫だと思ったワ
「そうでしょうネ。私もお写真を見て、そう思います」
ところが、小学校3年生ぐらいから、彼、サッカーに目覚めちゃって。それから、サッカー漬けの毎日
「そうですか」
そして今日、彼が入りたかったサッカーの名門校に、受かった訳
「なる程。おめでとうございます」
どうしても今日を、今迄の事も、これからの事も含めて、私の人生の中での特別の日にしたくて・・・
息子には、ママはお仕事があるから、今日は、お婆ちゃまと一緒に、お祝いの夕食会をしなさいと言って、一人で出かけて来たの
「それは、それは。そんな特別な日に、当店を選んでいただき、本当に嬉しいです。ありがとうございます」
私も、海辺の街で育ったので、泳ぐのが大好きで、子供の頃から毎日海で泳いでいたの
「そうですか」
 

大人になってからも、冬の誰もいない海で一人でずっと泳いだり。夏の海では、ヨットから飛び込んで、気がついたら、ヨットが流されて、しかたないから、浜まで泳いで帰ったり
「すごいですネ。危ないじゃないですか」
広い海の中を一人で泳いでいるのが、大好きなの。お魚になった気分
今は、マラソンも始めて2年位になるの。ホノルルマラソンにも去年行って来たのヨ。タイムはまだまだだけど。走ったり、泳いだりするのが、楽しくてしょうがないの
「ホー!すごいですネ。息子さんもやっぱり、お母様のD.N.A.を、受け継いでいるのですネ」
「お聞きしていますと、次は、トライアスロンに、挑戦ですか?」
だめだめ。子供の頃から自転車には、乗った事が無いのヨ。だって、走ったり歩いたりした方が、速いし、楽しいし、第一面倒くさくないし
「なる程、なる程」
今日からは、彼の人生、うまくいくか?いかないか?その半分は、彼の責任ヨ。あとの半分は、いつでもそばに居て、何かあれば、私がサポートしてあげる。半分はネ
「素晴らしい!その通りだと思います」

* * *
* * *
今、私、つくづく思っているの
「はい?」
息子は、あの神秘的な眼差しの神様が、私に授けてくれた、宝物だと
今日は、私の一生の中でも、最高に大切なそして、嬉しい特別な日だと思うワ
「そうですネ。おめでとうございます」
「お客様とご子息が、これから、素晴らしい人生を送られることを、心からお祈り申し上げます。そして、お婆チャマも」
ありがとう
「一曲、唄わせて下さい」
ウアー!お願い!
 
 
 


I Wish You Love

 

  
I wish you bluebirds in the spring
To give your heart a song to sing
And then a kiss but more than this
 I wish you love
 
And in July a lemonade
To cool you in some leafy glade
I wish you health and more than wealth
I wish you love
 
My breaking heart and I agree
That you and I could never be
So with my best my very best I set you free
 
I wish you shelter from a storm
A cozy fire to keep you warm
But most of all when snowflakes fall
I wish you love
 
(Lyrics by Albert A. Beach) 

 
 


Margarita

カクテルグラスのエッジをレモンで濡らして、塩でスノースタイルに。
テキーラ、クアントロ、レモンジュースをシェイカーに入れて、シェイクして、カクテルグラスに注ぐ。
 
 

Tequila Sunrise

グラスに、テキーラ、オレンジジュース、氷を入れてステアーする。グレナデンシロップを、静かに注ぎ沈ませる。燃える太陽のイメージ。
 
 

 

 
 


December

Yesterdays

Bloody Mary, Moscow Mule

 
あの日は、クリスマス・ウィークも終わり、あと2,3日で仕事納めだという日でした。
店にむかいながら、年々クリスマスが暇になってきたなあと。
昔は、訳ありげなカップルや、東京でクリスマスを過ごすために遠くから遊びに来ている2人連れとか、早く2人きりになりたげなアベックとか、イヴを2人でというお客様がいらして下さっていましたが、近年めっきり少なくなりました。
チョッピリそんな危なげな雰囲気があった方が、店にとっては良いのですが。皆さん昨今は、自宅でホームパーティーを、楽しんでいらっしゃるのでしょうかね。
そんなことを思いながら、年末の大掃除に必要な物を買いそろえて、店に入りました。
オープン準備が終わったところに、常連のお客様がお見えになりました。年末のご挨拶をしていたら、お客様が正月はハワイでゆっくりするのだとおっしゃったので、ハワイの話になりました。昔のハワイアンの曲は、良かったねと。そう言えば、あの頃のハワイアンは、打ち寄せる波の音が、聞こえてくるようでしたねと,盛り上がりました。
しばらくして、旅行の準備があるからと、お帰りになりました。片づけながら、昔のオアフ、マウイを思い出していました。そういえば、往か帰りかは忘れたけど、JL-62便というのが、TYO-HNLを飛んでいたなあ・・・と。その時でした。彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「どうぞこちらへ」
「コートとお荷物、お預かりします」
ありがとう
「どうぞ。熱いから気を付けてください」
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
ブラッデイ・マリーを
「かしこまりました」
  * * *
  * * *
「お待たせしました。ブラッデイ・マリーです」
ありがとう。美味しいわ
「ありがとうございます」
「どちらかに、ご旅行でしたか?」
え?ああ、今日パリから帰って来ました
この頃、ビジネスクラスのお客様が増えて、結構気を遣うので、疲れます
「なる程。昔はファーストと、エコノミーしか、ありませんでしたからね」
良くご存知ですね
「学校を出てしばらく、その業界で働いていましたので」
あー、そうなんですか。私は知りませんけど、当時は色んな事があったようですね
「そうですね。今では考えられないような事が、沢山ありました。懐かしいです」
コックピットにも入れたようなお話を聞いたことがあります
「ええ。当時は、ステュワーデスの方が、コックピットのキャプテンに、飛行中にワインを運んでいるのを、何度も見たことがあります」
へー!今では考えられない事ですね
今回はパリで1週間のヴァケーションを取って、ニューヨークへ行ってきたんです
「ホー!そうなのですか」
あの有名なロックフェラーセンター前の、巨大なクリスマスツリーのイルミネーションが点灯されていて、とってもきれいでした
「日本とは違って、キラキラ光っているだけじゃなくて、何となく重厚な感じを受けますね」
そうですね
「ニューヨークのクリスマスシーズンは、街も、人も何故か輝いていて、独特の雰囲気ですネ」
ええ。あの寒さと、道路の端から立ち昇る白い蒸気みたいな煙も、絵になりますネ
「ニューヨークの人達にとって、とても大事な行事なのでしょうネ。きっと」
お付き合いしている彼が、絵の勉強の為、1年ほど前から、ニューヨークに居るので逢いに行ったんです
「それは、それは。楽しいヴァケーションだったんでしょうね」
彼を驚かそうと思って、約束の日より1日早く、彼のアパートを訪ねたの
「なる程。さぞやお喜びになった事でしょう」
ところが、彼の部屋の前に着いたら、ドアノブに真っ赤な傘がかかっていたの
「おやおや、それは困りましたネ」
その日は逢わずに、ホテルに帰りました
約束どおり、翌日から二人で過ごしました。勿論、前の日の事は言わなかったワ
「そうですか」
私、海辺の街に住んでいるの
数年前の冬の寒い朝、犬の散歩で浜辺を歩いていたら、砂浜の一番後ろの小さな砂山の上で、スケッチをしている人がいたの。前には広がる海しかないし、寒そうだし、物好きな人もいるものだって思ったワ
「それは、それは。お話を聞くだけで、寒そうですネ」
それが、夕方お買い物の帰りに通りかかると、その人、同じ砂山の上で相変わらず、スケッチしてたの。思わず近づいて覗いてみたら、朝と同じ、海の絵なの。それもデッサン画で、色はついてないの
朝と同じ絵ですか?て聞いてみたら、彼が言うには、雲の動きで日差しが変わるし風の向きで波の立ち方が違うから、海の姿は刻一刻と変化するんですって
何10枚も見せてくれたけど、私には違いが良く分らなかったけど
「なる程。彼は真面目で、すごい観察力の持ち主なんですネ」
それが彼との出逢いだったの
「そうなんですか。ロマンチックな出逢いですネ」
「もう一杯、お作りしましょう」
お願いします
  * * *
  * * *
「お待たせしました。同じ、ウオッカベースのモスコミュールです。どうぞ」
ありがとう


美味しいワ
「ありがとうございます」
昔はよく、お休みの日に2人で、海や、山や、古い街並みの残る所とかに、スケッチ旅行に出かけていたの
彼がスケッチしている隣で、唯座って居るだけだったけど、ゆっくり流れる時間がとっても心地よくて、楽しかったワ
「いいお話ですネ。お客様が、お隣でコーヒーを淹れたり、ランチボックスを開けていらっしゃる姿が、眼に浮かぶようです」
そして、半月ぐらいすると、スケッチに色を付けて、完成した絵を見せてくれて。どれも、とても穏やかで、調和のとれた、優しい色使いで、感激したものです。今でも何枚かは、大事に持っています
「ホー!是非、拝見したいものです」
ヨーロッパの旧市街にも、何度も行ったワ
結婚するかもと、思った事もあったけど、彼には、まともな収入も無かったし・・・
ところが、1年位前に突然彼が絵の勉強に、ニューヨークへ行くと言い出したの
逢えなくなる訳でもないし、私もしょっちゅうニューヨークには行くし、彼の才能を信じていたし、もっともっとレベルアップして欲しいという思いもあって・・・賛成したの
「なる程」
ところが、ニューヨークへ行ってから彼の絵が変わっていったの。色使いも赤1色とか、紫とか、黒とか、濃い原色で、抽象的な絵になって。何て言うか、情熱や怒りをキャンバスにぶつける様な絵になっていったの
私なんかには、何を描いているのか、さっぱり理解できなくて。
「ホーッ。難しいものですネ」
何となく、しゃべり方も、その内容も荒っぽくなって、攻撃的になった感じなの
今回も2人でいる時どうしても、私が大好きだった昔の穏やかな絵の話をしてしまうわけ。すると彼は怒って、自分の心の内面を暴き出して人に伝えるのが、絵描きの仕事なんだって怒鳴るの
画家として、通らなきゃならない道なのかしらね
「なる程。絵の道だけじゃなくて、どんな道にもありそうなお話ですネ」
もう、昔の私が好きだった彼には、戻らないかもしれないワ
「そうでしょうか?初心に帰るということもあるのでは?」
そうかしら・・・
今回、パリに飛ぶ前日の朝、寒かったけど例の浜辺の小さな砂山の上に座って、海を眺めてみたの。そうしたら、彼が言ったように、海が変化するのが感じられたワ
もっとも、寒くて30分も座っていられなかったけど
何だか彼が、遠くへ行っちゃった気がするワ

  * * *
  * * *
「一曲、唄わせて下さい」
えー。お願いします
 
 


Yesterdays

 

 
Yesterdays  yesterdays
Days I knew as happy, sweet sequesterd days
Olden days golden days
Days of mad romance and love then gay
Youth was mine truth was mine
Joyous free and flaming life for sooth was mine
Sad am I glad am I
For today I’m dreaming of yesterdays
 
(Lyrics by Otto Harbach) 

 
 


Bloody Mary

氷を入れたタンブラーに、ウオッカ、トマトジュースを入れて、ステアー。
カットレモンを飾って、マドラーを添える。お好みで,胡椒、タバスコソース、ウスターソースを加える事も。
 

Moscow Mule

タンブラーにカットライムを絞り入れ、氷を入れる。ウオッカ、フレッシュライムジュースを注ぎ、冷えたジンジャエールで満たし、マドラーを添える 
 

 

 
 


November

That Old Feeling

Martini on the rockes, Gin & Tonik, and Negroni

 
あの日は、昔の仲間が飲みに来てくれた、11月の始めでした。
彼らは何ヶ月か毎に、集まる日を決めて来てくれています。
年寄りは、定刻の1時間ぐらい前に来る人もいるので、早めに店をオープンしました。
案の定、45分ぐらい前に、いつも1番に来る奴が、やって来ました。
そして、「誰もまだ来てないの?」って。これを聞いただけで、私は嬉しくなります。
三々五々と、皆が集まって来ました。そして、口をそろえて注文します。
「取りあえず、ビール」
いつもの奴が、「乾杯しようぜ」
そして私に「お前も一緒に」
「乾杯!」
それからは、例によって、健康、病気の話、そして、昔話しです。
いつもの奴が「今日俺は、1万歩以上歩いてきたんだ」と言って、自慢げに万歩計を見せます。するといつもの奴が、
「無理するとかえって、身体に悪いぞ」と。
それからは、日常の健康維持の話になって。
その内、「俺は大変な手術をしたんだ」「いや、俺の方が大変だった」という、手術自慢の話になります。いつもの事です。
そして、若い頃は、皆元気で、モテたもんだと、昔話に花が咲きます。
こんな時、本当に店をやっていて良かった。これからも、ガンバローと思うのです。嬉しいのです。
で、いつもの奴が「そろそろお開きにしようぜ」すると、いつもの奴が「早く帰って、寝なきゃ」すると、誰かが「まだ早いよ」。
暫らくあって、いつものように、次回の約束をして、帰って行きました。
今日も楽しかったなあと思いながら、外に出てみました。見上げると数少ない星がいつもより輝いていて、静かに冬が始まる気配でした。
そんな時でした。彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「どうぞこちらへ」
ありがとう
  * * *
  * * *
「どうぞ。チョッと熱いですよ」
「お飲み物は、如何致しましょう?」
マティニーのオンザロックと、ジン・トニックを
「?。かしこまりました」
  * * *
  * * *
「どうぞ。マティニーのオンザロックスと、ジン・トニックです」
ありがとう
少し、昔話しをしてもいいかしら?
「勿論です。お聞きしたいです」
私が学生の頃は、世の中の流れにも影響されていたのだと思うけど、どの大学にもアングラ劇団と呼ばれる、芝居のサークルがあって、それが時代の先端を担っているような風潮だったのよ
「えー。私も存じ上げております。よく公演の切符を買わされて、観に行きました。もっとも、さっぱり意味が分らなかったのを憶えています」
私もご多聞に漏れず、その中の1つのサークルに参加していたの
「なる程。お芝居をなさっていたのですか」
今考えてみれば、やっていたとは言えない位のものだったけど。当時は全員、なんだかんだと、燃えていて
「なる程。その気持ち、分かる様な気がします」
毎日昼間は、汚くて薄暗い、稽古場と呼ばれている所で、全員怖い顔をして、怒鳴り合って、お芝居をして。
夜は毎晩、反省会と称して飲み会。それもお金が無いから、誰かの下宿とか一番安い、居酒屋で、安いお酒を、飲んでいたワ
「なる程。若さですかネ」
今でも覚えているワ。シビンみたいな大きなウイスキーの瓶
「そういえば、一時流行っていましたネ。それにしても、さぞかし楽しかったでしょうネ」
口角泡を飛ばして、演劇論。その内、政治、経済問題、時には喧嘩になったり、突然誰かが泣き出したり。今考えてみれば何だったのかしら
持て余しているエネルギーを、発散させていたのネ。きっと・・・
「若いって言うのは、何でもアリですネ」
そのメンバーの中の男性と、お付き合いが始まったの
「おや、おや。そうですか」
彼は役者じゃなくて裏方で、何でもやっていたワ。嫌な顔一つせず、いつもニコニコして、小道具から、大きな舞台装置、照明まで。その上、公演の切符も沢山売っていたみたい。売ったかどうかは、わからないけど
夜の宴会の時も、どちらかと言うと、口数も少なく、人の話を聞いているタイプ。その上、会費が足りないと、多めに出していたみたい
「ホー・・・」
2人でデートする時は、普通の学生カップルと同じで、たわいのない会話を楽しんで。何となく、落ち着いた気分になったものヨ
「なる程。ホッとするのかもしれませんネ」
「もう一杯、お作りしましょうか?」
そうネ。お願いします
「かしこまりました」


  * * *
  * * *
「お待たせしました。ネグロー二です」
ありがとう。イタリアのカクテルネ
「その通りです。良くご存知ですネ」
大学を卒業して、彼は航空会社に就職して私は実家に戻って、その後もずうっとお付き合いしていたの
「その時も学生時代と又違って、楽しかったのでは?」
そうネ。楽しかったワ
しばらくして、結婚しようかという事になって、彼がお母様に、私に会ってくれって言ったの
「ホー!それで?」
彼が言うには、お母様は、会いません。会うと、二人の仲を認めざるを得なくなるからって、言われたんですって
「ホー!そうですか」
学生時代に髪の毛を真っ赤に染めて、訳のわからないお芝居なんかやっていたような女の子は、大事な息子には、ふさわしくないと、思ったのでしょうネ
「そうですかネ。昔堅気の人だという事も、あるんじゃないですか。会うと許しちゃうと思う気持ちは、親としては、あるかもしれませんネ」
その後もお付き合いしていたのだけど、何年か後に、彼に他の方との結婚話が持ち上がって。2人の仲がギクシャクしちゃって
最後の夜は真夜中に、青山の246にかかっている歩道橋の上で、1時間ぐらい2人で泣いて、私は右、彼は左の階段を降りて、お別れ
「それは、それは。大変でしたネ」
その後すぐに、私は1人でパリへ旅行に行ったの
「ホー。パリにですか。何か理由が?」
何もないワ。何となく
そうしたら、往きの飛行機の中で、今の主人の、フランス人の男性と出逢って。そして結婚。子供が出来て、それ以来、ずうっとパリ暮らし
「そうなのですか。わからないものですネ」
別れた彼も、会社で偉くなって。実は私の旦那もフランスの航空会社の役員なのヨ
「へーえ!偶然とはいえ、そんな事があるんですネ」
だから、彼の噂や、パリに来た日本人の方からのお話とか、業界新聞の記事とかで、彼がどうしているかは、ズーと知っていたの
「なる程。日本には、お帰りにならなかったのですか?」
2,3度帰ってきて、彼と逢ったけど、もう恋人同士というよりも、遠い親戚関係みたいな感じだったワ
「なる程。そうかもしれませんネ」
彼はジャズが好きで、自分でもピアノを弾くの。下手だったけど。お付き合いしていた頃は、2人でいつもピアノバーへ、飲みに行っていたの
「なる程。そうだったのですか」
実は、10日程前に、彼が亡くなったの
「えー!それは、それは」
私、昨日から東京に来ていたので、彼との事を思い出しながら、一緒に飲もうと思って
いつも彼は、マティニーのオンザロック、私は、ジン・トニックを飲んでいたのヨ
「そういう事だったんですか」
「そんな夜に、当店にご来店いただき、ありがとうございます」
「どうかお2人で、ごゆっくりと、お過ごし下さい」
ありがとう。来てよかったワ
  * * *
  * * *
「一曲、唄わせて下さい」
ありがとう。お願いします
 
 


That Old Feeling

 

 
Last night I started out happy
Last night my heart was so gay
Last night I found myself dancing
In my favorite cabaret
You were completely forgotten
Just an affair of the past
Then suddenly something happened to me
And I found my heart beating, oh, so fast
 
I saw you last night, and got that old feeling
When you came in sight, I got that old feeling
The moment that you danced by, I fell a thrill
And when you caught my eye
My heart stood still
Once again I seemed to feel that old yearning
And I knew the spark of love was still burning
There’ll be no new romance for me
It’s foolish to start
For that old feeling, Is still in my heart
  
(Lyrics by Lew Brown) 

 
 


Martini on the Rocks

ミキシンググラスにドライジンとドライベルモットを氷と一緒に入れて、ステアー。氷を入れたロックグラスに注ぐ。
ピンに刺したオリーブを入れる。
上から、レモンピールを絞り入れる
 

Gin & Tonic 

氷を入れたタンブラーにジンを入れる。冷やしたトニックウォータ―を入れ、ステアー。カットライムを絞って入れ、マドラーを添える。
 
 

 

 


Negroni

ジン、カンパリ、スゥイートベルモットを、氷を入れたロックグラスに注ぎステアー。
スライスオレンジを一枚入れる。
フィレンツェで生まれた。
 
 

 

 



October

Body and Soul

Daiquiri Mojito

 
 あの日は、10月の下旬でした。
ピアノの調律の先生が来てくれることになっていたので、早目のお昼を食べて、店に向かいました。
 風が大分ひんやりしてきたなと、周囲を見回すと、銀杏並木が、きれいな黄色に色ずいていました。眺めているうちに、もうすぐ枯れ葉が舞い落ちる。そしたら、あっという間に正月だ・・・今年も無事に年を越せるのかなあ。
余計な心配をしているうちに、店に着きました。
ほどなく、調律の先生もいらっしゃいました。彼は、挨拶もそこそこに仕事に取り掛かりました。無言で、黙々と。見ていて感心しました。余程ピアノの事を熟知してないと、出来ない仕事だろうな。その上、弾くのも上手そうだ。
 先生が帰って、オープンの準備を始めました。定時に開店しましたが、しばらくの間お客様は、お見えになりませんでした。そう言えば、今月に入って、お客様が少ない気がする。店の魅力が足りないのか、僕に原因があるのか、カラオケが無いからか?若い女の子が居ないからか?とか、色々考えてしまいました。
そんなこと言っても始まらない。気を取り直して、今日もしっかりやろう!と、思った時でした。
 彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「どうぞ、こちらへ」
「どうぞ。熱いので、気を付けてください」
「お飲み物は、如何致しましょう?」
薄めのダイキリを、お願いします
「かしこまりました」
 

  * * *
  * * *
「ダイキリです。薄めに作りました」
ありがとうございます
美味しいわ
「ありがとうございます」
「お着物が、良くお似合いですね」
ありがとうございます。お付き合いしている殿方が、お好きなので
「そうなんですか。その方が羨ましい」
もう長いお付き合いなんです。10年以上になります
「そうなんですか」
出逢いから刺激的でした
「ホー!」
ある日、私がお勤めしていた会社の取引銀行の方に、ダンスパーティーに誘われて。その会場で、その方の2,3年後輩の今の殿方にお逢いして、紹介されて
「なる程・そうなんですか」
そのあと会場で、ずうっと誰かに見つめられている様な気がして。周りを見渡すと、いつもその殿方が、私を見つめているの。目が合うと、ますます強く見つめ返してくるの。胸がドキドキして、どうしていいか分からなくなって・・・
「なる程。それで、どうなさいました?」
私が踊りだしたら、その殿方も踊りだしたの。相変わらず、私のお相手の肩越しに、私を見つめながら
そして、踊りながら近づいて来て・・・。私がお相手の背中にまわしている指先を、一瞬、ぎゅっと、握ったの
「ホー!大胆な方ですね」
頭の中に稲妻が走って、どこか私の知らない世界に、連れて行かれる様な気がしたわ
私のお相手の方が、席を外している間に私に電話番号のメモを握らせたの。そして、今日彼と別れたら、すぐに電話をくれって、おっしゃるの
「ホー!すごいですね」
会場を出て、直ぐにお相手の彼と別れて、チョッと考えたのだけど、お電話をしてしまったの
「そうですか。何か、運命みたいなものを感じたのかも知れませんね」
今、どこにいる?直ぐ行くから待っててって
結局、近くの落ち着いた感じのバーにご一緒して、一時間ほど過ごして。さすがに私もその夜は、最終電車で帰りました
「そうですか」
家に帰ってすぐに、シャワーを浴びたのだけど、火照った身体が静まらないし、頭は空回りして、眼が冴えて、一晩中眠れなかったワ
「なる程。彼もどうしてもお客様が、欲しかったのでしょうネ。彼にとっても、劇的な出会いだったのでしょう」
私が絶対ついて来るって言う確信が殿にはあったみたい
「なる程。そうかもしれませんネ」
殿は、お食事をしていても、お話をしていても、たまらなく素適で、お別れするとすぐに、お逢いしたくなるの
殿は、ホテルのバーのカウンターが大好きで、今日も今迄、そのバーで、ご一緒でした。
お仕事の関係で、先にお帰りになりましたけど
「そうですか。ホテルのバーカウンターは落ち着きますネ。私も休みの日には、時々一人で、日が暮れる頃に、フラット行きます。上から見る夕暮の街はきれいですヨ」
出逢いから何回目かのデートの時に、やっぱりホテルのバーでしたが、殿が突然お席を立って、しばらくしてお戻りになって、こうおっしゃったの
「なんておっしゃったんですか?」
夕食の用意が出来ましたって
「はあ?」
そのまま、お部屋にご一緒したら、そこには、ルームサービスのお食事が用意されていて・・・。冷えたシャンペンも・・・
「おやおや。そしてどうされました?」
・・・とても素適な夜でした
 
 

 
 
それから、殿と過ごす時間が、待ちどうしくて。殿も応えてくれて。お逢いする度におっしゃるの。君の着物姿は最高だって
「なる程。確かにお客様の様に、お着物がお似合いになる方は、そうはいらっしゃらないと、思いますヨ」
ありがとうございます
いつからか、もう二人の間には、無駄な会話なんていらなくなって。殿と見つめ合うだけで、考えていることがお互いに理解できるようになって。その瞬間、身体が震えてどうしようもなくなるの。私の事を、愛してくれているのだって・・・
お逢いする度に、離れられない気持ちが高まり、このままいつまでも、抱いていて欲しいって思うの。どんな時でも、殿の好みの女でいたいって
ある時期には、彼と連絡が取れない夜は、今頃何しているんだろう?と。考えているうちに、他の女の人と、何処かで一緒に居るに違いないと、街中のホテルを、探し廻った事もあったワ
「それは、それは」
他の女の人と一緒に過ごしていると思うと嫉妬心で気が狂って、部屋中のたうち廻っていたワ
でも、不思議なんだけど、そのうち、殿は他の女の人をどんな風に愛しているのかしら?とか思いだして、一度見てみたいとか覗いてみたいって思ったりするの。変よネ
「さあ。私には女性の奥深い所は良く分りませんが」
今考えてみれば、あの頃、殿は言わなかったけど私にうんざりだったんでしょうネ
私はもう殿のいない人生なんて、考えられなかったの。殿のすべてに、狂っていたの
「それは、お客様もさぞかし、お辛かったでしょう」
「もう一杯、お作りしましょうか?」
はい。お願いします
  * * *
  * * *
「お待たせしました。同じラムベースのモヒートです」
ありがとうございます
「グラスの持ち方が素適ですネ。指先がとても、きれいです」
えっ?あまり気にしていませんけど。そういえば、知り合って直ぐの頃、殿に言われたことがあったワ。強く握れば良いというものではないよって
何年か経って、殿が結婚したり、私も父を亡くしたりした時期があって、しばらくお逢いする回数が減ったの
「そうですか」
その間に、私の気持ちも少しずつ、落ち着いてきました。まったく逢ってなかったわけでもないので、それ程淋しくもなかったし
「なる程。少し気持ちに、余裕が出来たのですかネ」
ところが、2年ほど前から、又お誘いが増えてきて、以前はあまり無かったのに、旅行にも頻繁にご一緒するようになり、二人の時間が又、多く濃くなってきたの
「ホー。そうなんですか」
そして、逢う度に殿が私に言うの。君と二人で過ごす時間を、もっともっと、濃密な二人だけの特別な時間にしようって
「なる程。燃えているのですネ」
色んな事がエスカレートして来て・・・
ある時なんか、お食事のお約束で、レストランへ行ったら、殿の隣に見知らぬ女性が座っていて・・・
殿が言うの。今晩も素適な夜にしようって。さすがに途中でお別れしたのですけど
「それは、それは」
そしたら、翌日から毎日、何回もお電話で気分を害したのなら、心から謝るからって。そうしている内に、又逢いたくなって、逢いに行ってしまうの
これからどうなってしまうのか、とっても、不安だワ
でも、どうなっても、逢いに行くワ。きっと
殿を愛しているの。離れられないの
 
「一曲、唄わせて下さい」
はい

 

 


Body and Soul

 

 
My heart is sad and lonely
For you I cry for you dear only
I tell you I mean it I’m all for you Body and Soul
I spend my days in longing
And  wond’r-ing  why it’s me you’re wronging
Why haven’t you seen it ? I’m all for you body and soul
I can’t believe it it’s hard to conceive it
That you’d turn away romance
Are you pretending don’t say it’s the ending
I wish I could have one more chance to prove dear
My life a hell you’re making
You know  I’m yours for just the taking
I’d  gladly surrender
Myself  to you body and soul  
 
 
(Lyrics by Edward Heyman, Robert Sour and Frank Eyton) 

 
 


Daiquiri

ホワイトラム、フレッシュライムジュース、カリブシロップをシェイクして、カクテルグラスに注ぎ、スライスライムを添える。
 
 

 

 


Mojito

タンブラーにソーダとミントを入れて、ミントをつぶす。
ライムを絞ってそのまま入れ、クラッシュアイスを詰め、ラムとシロップを入れ、ステアー。
ミントの葉を飾る。
 
 

 

 



September

The Days of Wine and Roses

Camoari Soda & Spumoni

 
 あの日は、週末に箱根へ行って、帰ってきた月曜日でした。
 学生時代の仲間で、箱根の老舗ホテルを継いでいる友人に、大分前から小田原の名士の孫が結婚する事になり、披露宴をうちのホテルでやるので、ピアノを弾いてくれと頼まれていたのです。
 
 お昼前にロマンスカーで、箱根に向かいました。久し振りに乗ったので、何十年も前のことを思い出したりして、懐かしい気分になりました。
 昔は出発するとすぐに、お揃いのユニフォームの素適な女性達が席を回って、飲み物や、軽食の注文を取っていました。そして席まで運んで来てくれていたのを、憶えています。ビールも小瓶で、洒落た感じでした。若いころは、車内販売は高いので、駅で缶ビールを買っていました。       
箱根のロマンスカーが好きなのは、騒々しい都心を離れてしばらくすると、
 

 
 高級住宅街の大きな屋根が続き、川を渡った頃に右手に山並みが見え始め、そのうち富士山が現れ、小田原が近づくと左手に海が見えそしてそこから一気に、箱根の山の中へ入って行く。
この車窓の眺めの流れが、1時間ちょっとの短い時間の中で、旅行気分にしてくれるところです。この日も富士山がとてもきれいでした。
 駅に彼が迎えに来てくれていて、お蕎麦を御馳走になって、ホテルに入りました。打ち合わせの為、会場へ行くと、何百人もの宴会が出来る大ホールで、何十人ものスタッフが、黙々と準備をしていました。始まる前の緊張感と、どんな宴になるのかという期待感、いいですね。大好きです。
 司会をする若者が、やってきました。新郎の友人で、新郎の為に最高の披露宴にしようとの意気込みに満ちていて、私も一生懸命やらなきゃと思いました。プロの司会者もそれなりですが、お友達の皆さんで、新郎新婦の為にという姿は、見ていて心地良いものです。
 久しぶりに温泉を味わって、仕事着に着替えて、会場に入りました。思った通りの、心のこもった、温かい感じのパーティーでした。私まで、楽しませていただきました。
 終了後、友人と飲んで、昔話しで盛り上がり、お互い年を取ったけど、いつまでも一緒に飲みたいねと。
 翌朝早目の朝風呂に入って、帰って来ました。
 店をオープンして、何組かのお客様がいらっしゃって、秋から冬そしてクリスマスシーズンと、ジャズが良く似合うという話題で、盛り上がりました。そして皆様お帰りになって、洗い物をしながら、たまには、温泉も悪くないなと思った時でした。彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ。コート、お預かりします」
「どうぞ、こちらへ」
「カウンターの下にフックがありますので、よろしければ、ご利用ください」
「どうぞ。熱いので、お気をつけて」
「お飲み物は、如何いたしましょう?」
えーと、カンパリ・ソーダを
「かしこまりました」
  * * *
  * * *
「カンパリ・ソーダです。どうぞ」
ありがとう
美味しいわ・・・
「ありがとうございます」
今日は、朝からバタバタして
それは、それは。お疲れ様です。お仕事の方は、いかがでした?」
「えー。何組か、お客様がいらっしゃって下さって、早めに終わったし、良かったかな
「それは何よりです。どうぞ、ごゆっくり」
御商売の方はどう?
「はい。こんな小さなバーですので、そこそこです」
それが一番ですネ。趣味でやってらっしゃるみたいで、羨ましいワ
「そういう訳じゃないんですけど、マーマー」
 
 

 
実は半年ほど前に、お店に良く遊びに来てくれていたお坊ちゃまが、私の部屋に、転がり込んで来たのヨ
「へー!それは、それは」
家出して来たって言うの。三十過ぎの家出なんて、聞いたことないわよネ
「何か事情があったのでしょうネ」
彼は富山で代々続く薬問屋の、何代目かなのヨ。大学を出て、社会勉強の為とか言って、東京の広告代理店に勤めたの。お坊ちゃまに言わせると、夢を売る商売だそうヨ。楽しかったみたい
「なる程。それは楽しかったでしょうネ」
それが、3年ほど前にご両親に説得されて、実家の会社に戻ったの。本人も実家を継がなきゃって、ずっと思っていたみたい。子供の頃からそのように、育てられたのでしょうから
「なる程、なる程。良く分ります。それが何故、家出を?」
彼が言うには、今迄の夢を売る商売と違って、今度は、いかに安く買って、高く売るか、それも何銭単位で商売しなきゃいけないんだって
いわば、虚業の世界から、実業の世界に、入った訳なのネ
「なる程。環境が様変わりして、戸惑ったのでしょうネ」
その上、おじい様の代から滅私御奉公している番頭さんが何人もいて、毎日が窮屈だったみたい
「そういう事ですか。彼の気持ちも、分かる様な気もします」
寒い冬の日に、真っ赤なセーターを着て仕事をしていたら、番頭さんに呼ばれて、言われたんですって。お客様や、仕入れ先の人が、毎日沢山いらっしゃるから、もっと地味な色のものを着てもらわないと困るって
「それは、それは。大変ですネ」
世の中の人、特に取引先の人は、皆さんうちの会社を注目しているから、五時過ぎの残業もやらないでくれ。何か、問題があって、困っているのではと、思われるからって
「なる程。チョット今の時代では、ついていけないかもしれませんネ」
仕入れ先の社長とか、取引先の専務とかが、来る度に、決まって言われるんですって。ご結婚はまだですかとか、良いお話がありますとか。あまりしつこいので、実は、私はホモなんですって言いたくなったヨ。なんて、言ってたワ
「ハハハ、色々、精神的にきつかったのでしょうネ」
「何か、もう一杯、おつくりしましょう」    
お願いします
  * * *
  * * * 
「お待たせしました。スプモーニュです」.
ありがとう
でも、彼が転がり込んで来て、この半年間、私はとっても、楽しかったワ。本当に若い頃に戻ったみたいで・・・
お休みの日には、早起きして、海が見たくてドライブに行ったり、その日に帰って来るつもりが、海辺の温泉に一泊したり
ウィークデーの深夜、二人で飲み歩いたり踊りにクラブへ行ったり、先の事など、何も考えずに
そう、そう。ゴルフも良く行ったワ。私の方が上手だったけど
度々、私の狭いお部屋にお坊ちゃまが、お友達を何人も呼んで、大宴会。皆さん、酔っ払って、いつも雑魚寝。慌てて、私、朝食の準備をしたりして・・・楽しかったワ
「楽しそうですね」
時には、お坊ちゃま、帰って来なかったりして。帰って来た時の言い訳が、また可愛いのヨ。決まって、夕方の私が出勤準備に忙しい時に帰って来るの
そして済まなそうに、昔の仲間と徹マンになっちゃってとか言って
お仲間は皆さん、お仕事しているのだからそんな訳無いわよネ、そして汗をかいたから早くシャワーを浴びたいとか言って
「なる程、なる程」
そんな晩は、私がお仕事から帰って来るとお料理なんか出来ないくせに、ダシの入ってないお鍋料理なんか用意して
「そうですか。楽しそうですネ」
お坊ちゃまが朝から飲んでいたのが、カンパリ・ソーダなのヨ
「あ!そうですか。なる程、そういう事ですか」
今日は朝からバタバタしたって、言ったでしょう?
「はい」
実はお坊ちゃまのお母上から、お呼び出しがあって、お昼にお会いしたの
「ホー!それは大変でしたネ」
そろそろ、お坊ちゃまを返してくれっておっしゃるの。別に、私が奪った訳でもないのにネ
「そうですネ」
今頃、お坊ちゃま、この週末にどんな風に、別れ話を切り出そうかって悩んでいるわヨ。いつもの様にカンパリ・ソーダを飲みながらきっと・・・。フフフ・・・
楽しかったワ。この半年・・・
  * * *
  * * *
「一曲、唄わせて下さい」
勿論。お願い 

 

 


The Days of Wine and Roses

 

 
The days of wine and roses
Laugh and run away
Like a child at play
Through the meadowland toward a closing door
A door marked nevermore
That wasn’t there before
 
The lonely night discloses
Just a  passing breeze filled with memories
Of the golden smile that introduced me to
The days of wine and roses and you
 
 
(Lyrics by Johnny Mercer)
 

 
 


Campari Soda

タンブラーに氷を入れて冷やしてカンパリを注ぐ。ステアーしてから冷えたソーダを加え、ステアーしてスライスしたオレンジを入れる。
ほろ苦さが癖になり、飲みすぎるカクテルの定番
 
 

 

 


Spumoni

氷を入れたタンブラーにカンパリとグレープフルーツジュースを注ぐ。冷やしたトニックウオーターを加えて、ステアーする。
イタリアからのさっぱりしたカクテル
 

 

 



August

On a Clear Day

Gin Licky & Ballalaika

 
 あの日は俗に言うお盆休みの、前日でした。朝起きて、とにもかくにも冷房をつけ、この蒸し暑さ、かなわないなあと。
昔はこの暑さが大好きだったのに。あの頃は人影もまばらな真夏のこの街を駆けずり廻り、時々ホテルのロビーに入るとガンガンに冷房が効いていて、これが現代の文明開化だと思いました。
 一方その頃おやじは春先から、夏に向けて何ヶ月もかけて庭に穴を掘り、小さな池を造りました。
 

 
 そして何株かの蓮を浮かべ、夕方会社から帰って来ると、シトッ風呂浴びて、浴衣に着替え、うちわを持ちながら、池の脇に置いた縁台(おやじ作)に座って、瓶ビールを飲んでいました。時には、お袋が出すスイカに大量の塩を振って、食べていたのを、憶えています。
気持ち的には、どちらが涼しいのでしょうかネ?もっともおやじは、ドジョウは真夏に喰うもんだと、大川端の冷房のないドジョウ屋に行くような人でしたけど。
 明日から長期間のお休みだから、店の冷蔵庫や、戸棚の整理もしなくてはと、早めに店に入ったのですが、オープンからお客様が途切れる事がない位の忙しさでした。水商売とは、良く言ったものです。
皆さんお帰りになって、洗い物の最後のグラスを拭いている時でした。
 彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「どうぞこちらへ。バッグはカウンターの下にフックがありますので、ご利用ください」
「どうぞ。熱いですよ」
ありがとう
「お飲み物は?」
えーと。ジン・リッキーを
「かしこまりました」
  * * *
  * * *
「お待たせしました。ジン・リッキーです」
はい。ありがとうございます
  * * *
  * * *
「いかがですか?」
すっきりして、とても、美味しい
「お口に合って、良かったです」
実は、私の実家は、四国なんです
「ホー!そうですか」
色んな美味しい柑橘類が、沢山採れるんです。でもこのライムも、とっても美味しいワ
「ありがとうございます」
「四国には行った事がないのですが、お魚も美味しそうだし、海も川もとてもきれいで素適な所だというイメージがあります」
良い所ですよ
 
高校3年の時に、先輩だった今の主人に夢中になって。彼がいない人生なんて考えられないって思って
いつも、どんな時でも、彼のそばに居ました。今考えれば、彼の都合なんて何も考えずに、彼も私と一緒に居て幸せだと思っているに違いないって、勝手に信じていたのネ
「なる程。よっぽどお好きだったのですネ」
卒業してすぐに子供が出来て、周囲の猛反対を押し切って、結婚したの。その時は嬉しくて、天にも昇る気持だったワ
「一途に想うって事は、すごい事ですネ」
彼は地元のアパレルメーカーに勤めていて、仕事に燃えていたワ
「そうですか」
息子が生まれてすぐに、主人が東京支店に転勤になったの。勿論、3人で東京へ来たのだけど、支店と言っても彼一人みたいなもので。その上、彼は仕事で日本中を飛び廻わっていて、私が電話番みたいになって、とても、忙しい毎日でした
「小さな息子さんもご一緒で、大変だったでしょうネ」
東京へ出てきて1年ほどたった時に、主人が会社を辞めて、独立したの
「ホー!すごいですネ。さぞかし、やり手の方だったのでしょう」
お仕事が好きだったみたい
そしてすぐに、山形に縫製工場を作ったの
「すごいですネ。山形にですか?」
ええ・・
そうなると東京の事務所は、私がやらなきゃならなくなって
色々話し合って、結局息子を四国の私の実家に預けて、しばらく二人で頑張ろうという事になったの
「なる程。お二人とも大変な覚悟だったのでしょうネ」
そして、主人は山形、私は東京という生活が始まったわけ
「もう一杯いかがですか?」
えー。お願いします
  * * *
  * * *
 

 
「お待たせしました。バラライカです」
おいしそう!ありがとう
私は月に何度か息子に会いに四国へ、主人は時々、山形から東京へ帰って来るっていう生活でした
「なる程。大変でしたネ」
その内、山形の主人に彼女が出来て、殆ど東京に帰って来なくなって・・・
「ホー。それは、それは。お一人で、お淋しかったでしょう」
そんな時に、東京のお友達のお家のホームパーティーで、私が今お付き合いしている彼と出会ったの
「ホー」
お逢いした翌日から朝、昼、晩、深夜と猛烈なアタックだったワ
「おやおや。困りましたネ」
始めのうちは、何とかお断りしていたのだけど。私が主人に出会った頃を思い出して、あの時の私と同じ気持ちを、この年になっても持っている人が居るのだと思ったら、なにか胸が騒いで、嬉しくなって・・・。お付き合いが、始まったの
「なる程。その気持ち、分かるような気がします」
彼の気持ちを思うと、なかなか私の事情を話す事が、出来なかったワ
「そうでしょうネ」
私が四国へ帰る時には、理由も何も聞かずに、東京から一晩かけて車で送ってくれて
彼は一人でホテルに泊まり、翌日の朝一の飛行機で東京へ帰るという事が、何回もあったワ
私が羽田に帰って来る時には、必ず空港に迎えに来てくれていて。
「心の底からお客様を、愛していらっしゃるのでしょうネ」
ある日、息子からの手紙を、彼に見つけられて。その時に、決心したの。主人の事からすべて、彼にお話ししようと
「それはそれは。良く決心なさいましたね」
これ以上隠し通せないと思ったし、彼に対して失礼だと思ったの
ショックだった様だけど、彼、私を問い詰める事もなく、今迄通りにお付き合いが続いたの
「そうですか。彼も色々、考えたのでしょうけどネ」
そうだと思います。私も悩んだけど・・
一週間程前に、私が熱を出して寝ている時に突然主人が帰ってきたの
「ホー。そうですか」
その時、彼が花束を持って、お見舞いに来たの
「えー!それは大変だ」
みんな大人だから、何事も無かったけど。それから彼は大分悩んだみたいで
「そうでしょうネ」
私の為には、どうするのが一番良いのかとか、息子のことも含めて
「ご主人はどうなさいました?」
何も言わずに、山形へ帰りました
私、四国へ帰る事にしました。彼と逢えなくなるのは、とっても淋しい。東京へ戻って来たくなるかもしれない。    でも、決めました。
明日、彼に逢って伝えるつもりです
「そうですか。良く決心なさいましたネ」
「彼、また、車で送って行くと、おっしゃるかも知れませんヨ」
そうね・・・。でもそれは、お断りします
  * * *
  * * * 

 
 
「一曲、唄わせて下さい」
うれしい! お願いします
 

 
 
 

 


On a Clear Day

 

 
Rise and look around you
And you see who you are
On a clear day
How it will astound you
That the glow of your being
Out shines every star
You feel part of every mountain see and shore
You can hear from far and near
A world you’ve never heard before
And On a clear day
On that clear day
You can see forever
And ever, And ever, And ever more!
 
 
 
(Lyrics by Burton Lane/Alan Jay Lerner)
 

 
 


Gin Licky

タンブラーにカットライムを絞り、そのまま入れる。
それにドライジン、フレッシュライムジュース、氷を入れてステアー。冷やしたソーダを加えて軽くステアー。マドラーを添える。ジンの風味とライムの香りを楽しむ。
 

 


Ballalaika

ウオッカ、クアントロ、フレッシュレモンジュースをシェーカーに入れてシェイク。カクテルグラスに注ぐ

 



July

The Party's Over

Singapore Slingl & Manhattan

 
 あの日は、江戸時代からの風物史、隅田川花火大会の前日の金曜日でした。
そう言えば子供の頃は、二階の物干し場から、花火を見ていました。
今で言う、ウットデッキのベランダでしょうかネ。子供の頃の私にとっては、隅田川の花火は、これから楽しくて長い夏休みが始まるぞ!という合図でした。
どんな夏休みになるかなと、胸躍らせる日でした。
毎年、物干し場は夕方から、会社の人、近所の人たちが揃いの法被で集まっての大宴会でした。
 

 
 「たまや・・」、「かぎや・・」と、賑やかでしたが、子供の私にとっては、何台ものお寿司の大きな飯台が、とてもきれいで、美味しそうでした。
そして宴会が始まると、必ず手品をする番頭さんがいて。それもいつも同じ出し物で・・。でも、ちゃんとテープで、バックミュージックを流していました。
そんな昔の事を思い出しながら、開店した途端、私の苦手な常連さんが、来店しました。
例によって、花火から始まって、隅田川、そして浅草まで、ウンチクを聞かされました。
多少は、勉強になりますが。
 そのお客様がお帰りになって、ホットとした時でした・・・彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「どうぞこちらへ。お荷物、お預かりします」
  * * *
  * * *
「どうぞ。お熱いですよ」
ありがとう
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
夏だから、海辺のリゾートで飲みたくなるような、カクテルを
「かしこまりました」
  * * *
  * * * 

 
「お待たせしました。シンガポール・スリングです」
ありがとう。美味しい!
「ありがとうございます」
「今日は、どんなパーティーだったのですか?」
え・・・?どうして?
「お客様のようにおきれいで、聡明そうで、キャスター付きの小さめなスーツケース、そしてこの時間のご来店。そのヘアースタイルでしたので、そのようなお仕事かと」
あー!そういえば、今日はお部屋に帰ってなかったから、ウフフフ・・・
500人位のビュッフェスタイルのパーティー。社長、会長交代の、お披露目の会
「それは、それは。今時、珍しく盛大なお披露目パーティーですね」
そうですね。創立者である会長のご挨拶がとても長くて、皆さん、困っていたわ
「よくありますよね。私も昔、会社に勤めていた頃、よくそのようなパーティーに行かされました。始めのご挨拶が長い時は、なるべくお寿司の屋台のそばに立っていたものです。宴会が始まるとお寿司の屋台は、長蛇の列ですからね」
フフフ・・・。そういえば、今日も2~3人のお客様が、お寿司の屋台の前で、会長のお話を、聞いていたみたい
「お客様のお仕事も、一ケ所にずっと居るわけにはいかないから、大変ですね」
そうですね。でも、何年も前に比べたら、おタバコを吸うお客様が少なくなったので、楽になりましたヨ
「そうですね。昔はタバコに火をつけるのも、お仕事の内でしたからね。当店でも吸う方は、少なくなりました。」 
同じ業界の中で、それぞれの会社が、パーティーをなさるので、どの宴会にもお顔を出すお客様が、結構いらっしゃるの
「なる程。そうかもしれませんね。それじゃ、お誘いもたまにはあるのでは?」
 

 
 

そうですね。だから、お客様の初めてのお誘いで、ご一緒してもいいかなって思った時は、同僚2~3人で一緒に伺う様にしているの。みんなもそうしているみたい
「なる程、なる程。」
あからさまな社長、会長さんのお誘いは、勿論嫌なんだけど、同世代の独身の若い方も、あんまり・・・
「そうですか?」
だって、お話がすぐに、結婚話とか、その条件のお話とか。わずらわしい事が多くて、面倒くさいでしょ
それに私、今のお仕事、環境が、嫌いじゃないし
その点、結婚している方は、すぐにはそんなわずらわしい事には、ならないでしょう?
「なる程。そういう考え方もありますネ」
私、今、3年ぐらい前からお付き合いしている彼がいるの
「ホー!」
とても素敵な方で、月に1回位いしか逢えないけど、一緒に居ると、ホッとした気分になって、何も考えなくても良くて、心地よい時間を過ごす事が出来るの
勿論、彼には家庭もあるし、お仕事も充実しているみたい
「なる程。そうなのですか」
彼は、私の前では、絶対にお家のお話はしないし、私と一緒の時間をとっても大事にしてくれているの。勿論、サヨナラの時はチョッピリ淋しいけど・・・
でも、又すぐ、二人っきりになれると思うと、お仕事も頑張れるし、次に逢える日がとても楽しみになるの
「そうですか。心地よい関係のお二人という事ですかネ」
「もう一杯、いかがですか?」
あ、お願いします
「かしこまりました
  * * *
  * * *
「お待たせしました。マンハッタンです」
 

 

ありがとう。きれいだワ
美味しい
「ありがとうございます」
  * * *
  * * *
一年ぐらい前に、二人で沖縄へ行った事があるの。ところが、最終日に台風が来て、帰りの便がキャンセルになっちゃったの
「そりゃー大変だ」
私には何も言わなかったけど、さすがに色々連絡を取って、あたふたしていたみたい。あわてた素振りを見せたのは、あの時一度だけだったワ
「そうですか。優しい方ですネ」
いつでも、私に気を遣ってくれていたワ
私には、最高のお付き合いだったワ
「だった?」
3ヶ月程前に、彼、話があるって
お仕事も、家庭も捨ててもいいから、私と一緒に居たいって、真剣に言うの
「ホー!お客様の事を心から、愛していらっしゃるのですネ」
嬉しかったけど。その時は、少し考えさせて下さい。それからお返事するので、待っていて欲しいって言ったの
「なる程。彼を愛しているからこそ、簡単にはお返事出来ませんよネ」

今日、お断りしてきたの
 
 

「そうですか。良く決心なさいましたネ」
こんな素敵なお付き合い、多分、いいえきっと二度とないと思うワ
彼に、もう逢えなくなるのは、悲しくて淋しいワ。これから一人で生きて行けるかって、不安になるの
「そうだと思います。彼も、ショックだったでしょうネ」
でも、どう考えても、他人を不幸にして掴む幸せなんて、絶対にうまくいきっこない。神様が許さないワ。きっとバチが当たるワ
「お返事なさる迄、お悩みになって、大変だったでしょうネ」
今まで、私を幸せにしてくれた彼に、心から感謝しているワ
私もそろそろ、結婚でも考えてみようかなあ・・・
「一曲、唄わせて下さい」
嬉しい。お願いします

 
 
 

 


The Party's Over

 

It’s time to call it a day
They’ve burst your pretty balloon
And taken the moon away
It’s time to wind up the masquerade
Just make your mind up
The piper must be paid
 
The party’s over
The candles flicker and dim
You danced and dreamed through the night
It seemed to be right just being with him
Now you must wake up
All dreams must end
Take off your make up
The party’s over , It’s all over, my friend  
  
(Lyrics by Betty Comden & Adolph Green)
 

 
 


Singapore Sling

ドライジン、チェリーブランデー、レモンジュース、シュガーシロップ、ベネディクティンドムをシェイクする。
氷を入れたタンブラーに注ぎ、冷やしたソーダを加えてステアする。レモンスライスとチェリーを飾る。
ラッフルズホテルで誕生したと言われている。

 


Manhattan

ウィスキー、チンザノロッソ、アンゴスチョラビターズを、氷を入れたミキシンググラスに入れて、ステアする。カクテルグラスに注ぎ、カクテルピンに刺したチェリーを飾る。ウィスキーの量を多くすれば、ドライになる。

 



June

Red Roses for a Blue Lady

Kir Royal & Virgin Road

 
 あの日は梅雨入り宣言が出て、3、4日後でした。宣言以来雨が降らず、テレビでは、南の高気圧がどうのこうのと、賑やかでした。
昔は、山の天気は木こりのおじいさんに、海の天気は漁師のおじさんに聞け。街の天気は、自分で判断しろと、言われていたものです。
今では、今日は洗濯しろとか、夕方から大雨だから、早く家へ帰れとか余計なお世話な気がします。ましてや早く家へ帰れなんて、営業妨害ですヨ。
 梅雨の季節になると、中学時代を思い出します。ツベルクリン検査と言うのがあって、何故か私も検査の結果、B.C.G.を打たれることに。その頃の私は、部活に夢中でしたので、B.C.G.を受けた日も、放課後体育館で汗をいっぱいかきながら練習に励んでいました。気がつくと、夕食の時間をとっくに過ぎていました。あわてて体育館を出ると、土砂降りの雨。ええい、ままよと、雨の中を走って家に帰りました。その晩遅くに高熱が出て、肺炎になりかけたのです。お医者様の診断は、しばらく学校を休んで、美味いものを食べて寝ていろという事でした。部活が出来ないのは淋しいけど、勉強しなくていいっていうのはラッキーと、思ったのを覚えています。
 お店を開けてすぐに常連さんが来店してくれて、梅雨の話題で盛り上がっているうちに、ジャズの歌詞にも、雨が良く出てくるネ、という話しになりました。そういえば、楽しい唄にも、悲しい唄にも淋しい唄にも、良く雨が出てきます。
何故ですかネ。
そのお客様がお帰りになって、雨の歌でも唄ってみようかなあと、ピアノに向かった時でした。彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「カウンターの下にフックがありますので、ご利用ください」
ありがとうございます
  * * *
  * * *
「どうぞ。熱いので気をつけてください」
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
ええ・・と、あまり強くないので、軽めの、私でも味わえる様なカクテルを
「かしこまりました」
  * * *
  * * *
「お待たせしました。キール・ロワイヤルです。シャンペンをベースにしたカクテルです」
ありがとうございます
美味しい!リフレッシュする感じですね
「ありがとうございます」
 

 
* * *
* * *
「失礼ですが、チョッとお疲れの様ですね」
そう・・・?
実は私、来週結婚するんです
「ホー!それは、それは。おめでとうございます」
「さぞかし素敵な花嫁さんでしょうね」
1年程前にお友達の紹介で、お見合いしたんです
彼とは子供の頃からの環境が良く似ていて家族構成や、親の教育方針も。なので、最初から話題も会話もスムースだしあまり気を遣わなくても良くて・・・
「それは、それは。良いお話で良かったですね」
教会でお式を挙げるのですが、その教会では、結婚式の半年前から月に一度、牧師様のお話を、二人でお聞きする事になっているの。そして今日が、最終回だったんです
「なる程、なる程」
牧師様が今日もおっしゃったの。これから、お二人ご一緒の人生が、始まります。良い事ばかりでは無いでしょう。でも、お互いに信じ合い、助け合い、何よりも愛し合って、素敵な家庭を築き、素晴らしいお二人の人生を、目指して下さいって
でも、私自信ないの。本当に、牧師様のおっしゃる様な気持ちで、これからやって行けるのかしらって・・・。とっても不安なの
今日もお話が終わって、教会のお庭のベンチに座っている時、彼に言っちゃったの。私達、本当に来週、結婚式を挙げるのって
「おや、おや。」
勿論、彼は今更何を言っているんだって怒っていたワ。そりゃそうよネ」
「でもだいぶ前から、色んな事が気になって。本当にこれから二人で、やっていけるのかしらって
「どういう事ですか?」
お食事に行ったり、二人でお茶を飲んでいたりすると、彼、必ず携帯とか、キーホルダーとかを、テーブルの上に並べて置くの
何だか、せっかくの二人のテーブルが他の事で邪魔されているような気がするの
「なる程。うちのお客様でも、テーブルの上に置く方、時々いらっしゃいますヨ。日頃お忙しいので、クセになっているのですかネ」
マスター、パンにバターをつける時、どうやってつけます?
「えーと、どうやってつけているのかナ・・・」
バターの表面を削ってつける?それともバターをカットしてつけます?
「なる程。どうでしたかネ。あんまり考えた事ありません。スミマセン」
私はカットしてつける方だけど、彼は削り派なの。見るたびに気になっちゃって
「なる程、なる程。困りましたネ」
お家では湯豆腐は、どうやって食べています?
「湯豆腐ですか?普通に食べていると思いますけど」
私の家では、おダシを入れた器をお鍋の真ん中に置いて、お豆腐をそれに浸けて食べているの
でも彼のお家では、一人ひとりの前にダシの小鉢があって、お豆腐をお鍋から取ってきて、それに浸けて食べるの
その上、湯豆腐のお鍋の中に時々、鱈の切り身を入れたりするの
「そうですか。子供の頃からの食べ方が違うと、味も変わってきますかネ」
彼のお家のやり方が嫌いとかじゃないのだけど、気になっちゃうのヨ
「似たような環境でも、日々の生活の1つ1つが、違っているのですネ」
「何か、もう一杯いかがですか?」
お願いします
  * * *
  * * *
「お待たせしました」
わー!きれいですネ
 

「このカクテは、ヴァージンロードと言います。素晴らしい結婚式になりますように!」
・・・
そしてこれが、一番問題なのだけど彼のお家は皆さん、お酒をお飲みにならないの
「ホー!そうですか」
私の家は全員晩酌するの。少しでいいのだけど、一口飲まないとお食事が進まないのヨ
多分、一緒になって最初の内は大丈夫だと思うけど、ずうっと続けられるかどうか・・・、とっても心配
「なる程。それは大問題ですネ」
この頃思うの。彼、もしかすると亭主関白になるかもって・・・
色んなことを考えていると、不安でこの頃、眠れなくなることも
「これまでの人生と違った新しい生活を始められる訳ですから、それは色々とご心配でしょうネ」
「でも、世の中の殆どの人達は、結婚して何十年とご夫婦で過ごしています。

 

お二人で生活して行くのは、大変な事ばかりでしょう。だけど、お二人だからこその楽しい事も、いっぱいあると思いますヨ。今迄、味わった事が無いような歓びも、きっと経験できます。決して悪い事ばかりじゃないと思いますヨ」
そうかしらネ・・・。そうだと良いけれど・・・
「まずは来週、素敵なヴァージンロードをゆっくりと味わってみたらいかがですか?」
「お客様の永久のお幸せを、お祈り申し上げます」
ありがとうございます
色々、聞いていただいて、ありがとうございました
「とんでもない。こちらこそ、ご来店いただき、感謝しております」
「一曲、唄わせてください」
まあ!是非!

 
 

 


Red Roses for a Blue Lady

 

I want some red roses for a blue lady
Mister florist take my order please
We had a silly quarrel the other day
Hope these pretty flowers chase her blues away
Wrap up some red roses for a blue lady
Send then to the sweetest gal in town
And if they do the trick I’ll hurry back to pick
Your best white orchid for her wedding gown
 
 
(Lyrics by Sid Tepper)
 

 
 


Kir Royal

シャンペングラス(フルート型)に、クレームドカシスとシャンペンを注ぎ、軽くステアーする


 

Virgin Road

ワイングラスにグレナデンシロップを入れ、クラッシュッドアイスをたっぷり入れる。ホワイトラム、レモンリキュール、フレッシュグレープフルーツジュースをシェイクして、ワイングラスに注ぐ。
ストローを添えて白い花を飾る。白が基調になり、ウェデイングドレスの清楚さを、感じさせる
 


 


May

Pennies From Heaven

Tom Collins & Salty Dog

あの日は、ゴールデンウィークが終わり、 いや、三社のお祭りも終わっていましたから5 月の20日過ぎだったと思います。 朝起きて窓を開けると、風は爽やか、 銀杏の並木もあざやかな緑、これぞ五月晴れというお天気でした。思わず思い出しました。
 「目に青葉 やまほととぎす 初鰹」
その途端、どうしても鰹が食べたくなって、お昼からお酒は飲めないけど、仕方ない。 早目に家を出て、いつもお世話になっているお寿司屋さんに寄って、たたき風の鰹のお刺身を頼みました。
そうしたら大将が、「お飲み物は?」
思わず「ビール、お願いします!」
 子供の頃を思い出しました。
あの頃は、毎朝魚源の若旦那が、 御用聞きに来ていました。
若旦那は背が高く格好良くて、 髪をきちっと七三に分け、いつも真っ白な開襟シャツと白い長靴でした。
裏木戸があく音がすると台所に行って、 若旦那の来るのを、待っていたものです。
5月のある日、おふくろが、
「今日は何かお刺身ある?」
若旦那「今は鰹が旬ですから、 ご用意いたします」
「それじゃ5人前、5時頃届けて頂戴」
「ありがとうございます」
今日はお刺身だぁ!
その頃の出前のお刺身は、一人前毎に チョット深めの器で、底に細いガラスの棒を
糸で結んだ小さなスノコの様な物をひいた上に、盛ってありました。ご飯とのバランスを考えながら食べたものです。
そして翌日の朝、若旦那がいつもの様に やって来ました。
そしたらおふくろが、「魚源さんともあろうものが、あんな物を出しちゃだめじゃない。戻り鰹かと思ったは。 気をつけなさい」
若旦那は直立不動で、「申し訳ありません」
いい時代だったんですネ。
 お寿司屋さんで、おいしい鰹をご馳走になって、店に入り開店準備を終え、 一休みと思った時でした。 彼女が、扉を開けたのは・・・
 
「いらっしゃいませ」
「どうぞこちらへ。 よろしければ、カウンターの下に フックがありますので、ご利用ください」
え? あ・・、ありがとうございます
  * * *
  * * *
「どうぞ。お熱いですよ」
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
えーと、トム・コリンズをお願いします
「かしこまりました」
  * * *
  * * *
「お待たせしました。トム・コリンズです」
ありがとう。 おいしい!
「ありがとうございます」
「今夜は星空のようですが、 この所、天候が不順で、鬱陶しいですね」
そうですね
  * * * 
  * * *
1年ほど前に、カフェのオープンテラスで お友達とお茶してたら、彼女、デートだと言って先に帰ってしまったの
しばらく一人で、スケジュール表を見ていたら、急に雨が降ってきて、あわてて屋根の ある所へ行って、様子を見ていたの
「それは大変でしたね」
そうしたら、お店の前に車が止まって、 男の人が降りてきて、傘をさしかけてくれたの。そして、宜しければお送りしますって
「ホー! どうなさいました?」
チョッと迷ったんだけど、昼間だし、 変な人でもなさそうだったので 送っていただいたの
「そうですか」
いつも私は、男の方に送って頂く時は、 家から一番近い駅で降ろしていただいていたので、その日も駅前で、傘をお借りして、 名刺をいただいてお別れしたの
「なる程。それは助かりましたネ」
翌日、お礼のお電話をしました
そうしたら数日後、お食事のお誘いがあって、お寿司屋さんに行ったの
「それは、それは。おいしかったですか?」
えー。とっても
その上、彼の注文の仕方、 板前さんとの会話、お酒の飲み方、 そして、私に対するチョッとした心くばり、 とってもスマートで、嫌味が無くて 感心しちゃったの
「楽しかったようですネ」
  * * *
  * * *
彼、音楽が好きで、色々なお話をしてくれて。私にどんなジャンルが好きなのかとか、 歌手では誰が好きなのかって
私、女性ボーカルが好きなので そんなお話をしていたの。楽しかったワ
「ジャズの世界でも、この頃、女性ボーカル が、ブームになっているようです」
えー。そうみたいですネ
食べ終わる頃に雨が降ってきたの
「おや、おや」
お寿司屋さんで、傘をお借りして 最寄りの駅まで送っていただきました
「そうですか。良く雨が降りますネ」
      * * *
  * * *
数日後、私の大好きな女性ボーカルの コンサートの切符が取れたというお電話が
あって、二人で聴きに行ったの。 とっても素敵なコンサートだったワ
「それは、それは。良かったですネ」
ところが、コンサートホールを出ようとしたら、又、又、雨が降ってきたの。 それも大雨
「又、雨ですか・・・」
コンサートホールの出口の所に ティールームがあって、彼がそこに寄りましょうって言って、入ったの
そしたら彼が、スミマセンが15分ほど、 ここで待っていてください。すぐ戻ります。 そう言って、雨の中を走って出て行ったの
どうしたのかしらと思っていたら、戻ってきてお待たせしました。出ましょうって
ホールを出たら、そこにレンタカーが止まっていたの!彼が言うには、この雨じゃタクシーも捕まらないと思ったのでって
そのままホテルの鉄板ステーキのお店へ。とても美味しかったけど、 彼は運転なのでお酒が飲めない訳。 よっぽど私が運転をと言おうとしたけど、 その時の白ワインが美味しくて・・・
「なる程。彼はなかなかシャレた事をなさる方ですね」
その晩、始めて家の前まで、送っていただきました
  * * * 
  * * *
「もう一杯、いかがですか?」
お願いします
  * * *
  * * *
「お待たせしました。 ソルテイードッグです」
ありがとう。お塩が、どんな感じなのかしら
美味しいワ
「ありがとうございます」
  * * *
  * * *
上手じゃないけど、私もゴルフを時々やるの。そんなお話を彼にしていたら、 ゴルフに誘われたの。彼は上手で80 前後で廻るらしいの。 時々はパープレイも
「ホー!お上手なんですネ」
その日は朝から、雲一つない快晴で、 迎えに来てくれた車の中で、 今日は最高だネって。 楽しい一日になりそうだ。 いつも、いつも、雨ばかりだからって。 彼も上機嫌、私もウキウキ
ハーフが終わって、お昼を食べて 午後、イン・スタート
「楽しそうですネ。ゴルフは天候に 左右されますヨ。快晴で何よりです」
ところが、16番ホールで 事件が起きちゃったのヨ
「どうしたんだろう・・・?」
「16番はミドルホール?」
ウゥーン、違うの
「え?!、もしかして、ホールインワン? 違います?!」
その通り!よくお分かりネ
170ヤード位の、チョット打ち下ろし気味のショートホール。彼の打ったボールは、まっすぐピンに向かって行って、グリーンにのって、2~3回バウンドして、 スーと転がって行ったの。そして、ホールに吸い込まれるように、入ったの!
とってもきれいだったワ。 キャディーさんが叫んで、私達は思わず 抱き合って、何回も飛び上がったワ
「それはすごい!おめでとうございました」
ところが、ところが、17番に向かう時に突然、スコールの様な雨が降ってきたの
「おやおや。またまた、雨ですか」
彼は、私と始めて一緒にゴルフをして、 その上、ホールインワン。 僕のゴルフ人生、いや、僕の人生の中でも とっても大切な記念日だから、 最後まで廻って、スコアーカードを 提出したいって言うの
「なる程。なる程」
私もその通りだと思ったから、 二人ともびしょ濡れになりながら、 やっとの思いで18番をホールアウトして、 お風呂場に一目散。 結局、この日も最後は雨だったワ
食堂へ行ったら、他のゲストはもう誰もいなくて、私たち二人だけ。貸し切り状態。 食堂のスタッフの方々が祝ってくれて。 彼は、今日は車を置いていくと言って、 皆で何回も乾杯して
クラブの車で近くの駅まで送っていただいて、電車で帰ってきたの
「そうですか。それにしても、よく雨が 降りますネ」
 

 
 

そろそろ、結婚のお話も出てきているの
「それは、それは。おめでとうございます」
ありがとうございます。でも・・・、雨は困るのヨ。雨を降らせているのは、
どちらかしらネ
「何故、困るのですか?」
実は、私の実家は郊外で、テニスクラブを経営しているの。その上、父に言われて、今年から私、そこの責任者になったのヨ
「なる程、なる程。それはチョッと心配ですネ」
「でも、こうは考えられませんか?よく言うじゃないですか。雨降って、地固まるって。神様が、お二人の将来に備えて雨を降らせているのでは?」
そうかしら・・・。
「きっとそうですヨ。結婚式の当日は、大きくて、きれいな虹が、お二人を祝福してくれますヨ」
そうだといいワ・・・
  * * *
  * * *
「1曲、唄わせて下さい」
嬉しい!お願いします

 

 


Pennies From Heaven

 

Every time it rains it rains Pennies from heaven
Don’t you know each cloud contains  pennies from heaven
You’ll find your fortune falling all over town
Be sure that your umbrella is upside and down
Trade then for a package of sunshine and flowers
If you want the things you love you must have showers
So when you hear it  thunder don’t  run  under a tree
There’ll be pennies from heaven for you and me
 
(Lyrics by Arthur Johnston/Johnny Bruke)
 

 
 


Tom Collins

ドライジン、レモンジュース、シュガーシロップを氷と一緒にシェイクする。
コリンズグラスに氷を入れ、冷やしたグラスにシェイクしたものを入れ、ソーダを加え、ステアする。


 

Salty Dog

オールドファッショングラスのふちを塩でスノースタイルにする。
氷、ウオッカ、グレープフルーツジュースを注ぎ、ステアする。


 


April

Cottage for sale

Gimlet & China Blue

あの日は4月中頃の、金曜日でした。 目を覚ますと、前夜からの雨が降り続いていました。遅い朝食と言うか、早い昼食を取りながら、一週間、早いものだと思ったのを憶えています。家を出て雨の中を歩きながら、春の雨は、梅雨の雨や、冬の寒い時の雨に比べると、軽やかだなあと感じました。春雨じゃあ…濡れて行こう、の感じですかネ。それにしても、毎年思うのですがこの時期のこの街中は、新入りの歩き慣れていない若者が急に増えて、いつもと違って、歩きづらい。もう少しサッさっと歩けないものかと。団体で右へ行ったり、左へ行ったり。
でも、もしかして、将来うちの店のお客様になるかも。クワバラ、クワバラ…。
お客様に頼まれていた、シングルモルト・ウィスキーを、酒屋さんで受け取って
店に入り、開店の準備を始めました。
雨にもかかわらず、お客様もいつものように来ていただけて、そして皆さまお帰りになり、一休みと思った時でした。彼女が扉を開けたのは・・
「いらっしゃいませ」
「宜しければ、コートと傘、お預かりします」
「バックは、カウンターの下にフックがありますので、お使い下さい」
「どうぞ。チョット熱いですよ」
ありがとうございます
***
「お飲み物は、いかがいたしましょう?」
・・・ギムレットを、お願いします
「かしこまりました」
***

「お待たせしました。ギムレットです」 ありがとうございます
おいしい!さわやかな感じですね
「ありがとうございます」
「雨は上がりましたか?」
ええ。先ほど。頬にあたる雨上がりの夜風が、とても心地よかったです
「週末に向けて、お天気が回復しそうで何よりです」
そうですね
***
実は私、明日、明後日で、お引越しするんです
「ホーそれはそれは。雨があがって良かったです」
一人暮らしだし、今のお部屋に住んで 5 年ぐらいだし、荷物もそんなになくて。ただチョット遠くへ引っ越すんですけど
「お仕事、お変わりになるのですか?」
ええ・・・それよりも、今の暮らしを変えようかと思って
「成る程。何か訳がおありのようですね」
***
私、お付き合いしている方がいるんです。彼、同じ会社の先輩なの
「そうですか」
もう 7 年になります。彼には奥様も、お嬢様もいらっしゃるの
「ホー」
そんな事は承知の上で、お付き合いして来ました。
私にとって、彼と二人でいる時が、かけがいのない大事な時間なの
***
穏やかな真っ青な大海原に浮かんでいる、帆を降ろしたヨットの上に、二人っきりで居る感じかな・・・
一緒にいると、邪魔するものが何もなくて、心配することも無くて、時々ヨットが揺れると、微笑みあって・・・もしも突然嵐が来て、どこかに流されても、それはそれで幸せと
5 年前に、彼のお家の2ツ手前の駅のそばの今のお部屋に、引っ越しました。出来る限り、彼との一緒の時間が欲しかったから
「ホー!心から愛していらっしゃるのですね」
彼に時間が出来ると、いつもお昼過ぎにメールが来て、今日は一緒に夕食を食べようとか言われて。嬉しくて、一生懸命早く退社して、駅前のスーパーで彼の好きなお酒や、お料理の材料を用意して・・・
本当に楽しい毎日でした
「幸せそうですね」
***
彼には色々な事を、教えてもらいました。楽しい事だけじゃなく、悲しい事も、淋しい事も、そして苦しい事も
でも・・・どんな時でも、私は間違いなく彼を愛しているのだと思えて。そんな彼がそばに居てくれて、幸せです
「すばらしい!彼が羨ましい」
彼は学生時代から注目されていた、アメリカンフットボールのクォーターバックでした。今の会社に入っても活躍していました。その当時の事は、私は知りませんけど
私が入社した年に、うちの会社のチームが社会人リーグで優勝して、その祝勝会のパーティーに、O.B.として出席していた彼と、出逢ったの
「アメフトのクォーターバックですか。花形ですネ」
年の差もあるし、彼もあまり喋らないし。でも私にとっては、特別な出会いでした
「彼にとっても、そうだったのではありませんか」
***
実は今日、彼のお誕生日だったの。先程まで、お部屋で二人だけのお祝いの夕食会を。そしていつもの様に、食後のお酒を楽しんでいたの
「それは、それは。楽しかったでしょうネ」
彼は今夜も一緒に過ごして、明日の朝帰ると、言い張ったのだけど、前々から、明日はお嬢様のボーイフレンドが、始めて彼のお家に来ると聞いていたので、今夜は帰らなきゃダメと言い聞かせて。私も明日、用事で実家に行くからと言ってやっと帰したの
「そうなのですか。そんな夜にご来店いただき、ありがとうございます
「何かお飲み物、お作りしましょうか?」
ええ。お願いします
「かしこまりました」
***

「お待たせしました。 チャイナ・ブルーです。ライチのリキュールをベー スにした、カクテルです」
とてもきれい!
ライチって中華料理のデザートによく出てくる?
「そうです。楊貴妃が好んだと言われています」
美味しい!
「お口にあってよかったです」
***
2、3年前から彼は、大学時代のお仲間に誘われて、定時制高校の野球部のコーチをしているの。燃えているみたい
「ホー!」
野球は詳しくないけど、ボールの投げ方、受け方は良く知っているんだって、いつも言っていました
教えている生徒達を、いつか神宮の大会に出場させるのが目標だと
「いいですネ。私も体育会系なので、彼の気持ちが良く分ります。羨ましい!楽しくてしょうがないでしょうネ」
夢中になって話すの。練習試合をしても、いつも大差で負けるんだと。 だからチームプレーとは何かを教えるために、ピッチャーにキャッチャーをさせたり、キャッチャーにピッチャーをさせたり、ファーストとサードを入れ替えたり、外野と内野を逆にしたりして、練習試合をするんだと
「なる程、なる程。素晴らしい!常に相手の立場に立って、そして仲間を信じなければいけないということですヨ。それじゃなきゃ、あんな何十ヤードものロングパスなど、通る訳ないです。いやー、良いお話を聞かせていただきました。 彼にお会いしてみたい」
そんなお話をする時は、私のことなど眼中にないみたい。ウフフフ
***
でも・・・一年ぐらい前から、こんな幸せな毎日 でよいのかしら?て。いつまでも続くものかしら?いろいろなことを考えるようになって・・・幸せすぎて、恐ろしくなったのかも
「なるほど」
彼のお家のことばかりじゃなくて、勿論これからの私の事、彼のこれからのお仕事の事とか
「お悩みになったのですネ」

1ヶ月程前に、決心したの。彼の為だけじゃなく、私の為にも 引越そうって
***
「良く決心なさいましたネ」
「お客様がそういう強い気持ちを持てたのも彼とのお付き合いで、学び取ったものかも 知れませんネ」
「彼もこれから淋しくて、大変だと思いますヨ」
***
明後日の日曜日に会社に行って、直接の上司のデスクに退職願を入れてそして彼のデスクの中にありがとうのお手紙を 置いて、引っ越します
「そうですか。ガンバって下さい。きっと明日、明後日、雲一つない青空が広がりますよ」
何年かして、神宮で、彼のチームの 応援が出来たら嬉しいワ
「きっと、出来ますヨ。きっと!」
***
「一曲、唄わせて下さい」
お願いします
 

 


A Cottage For Sale

 
Our little dream castle

With every dream gone
Is lonely and silent
The shades are all drawn
And my heart is heavy
As I gaze upon
A cottage for sale
The lawn we were proud of
Is waving in hay
Our beautiful garden has
Withered away.
Where we planted roses
The weeds seem to say...
A cottage for sale
Through every window
I see your face
But when I reach that window
There's empty space
The key's in the mailbox
The same as before
But no one is waiting for me anymore
The end of our story
Is there on the door
A cottage for sale.
 (Lyrics by Larry Conley)
 

 
 


Gimlet

ドライジンとライムジュースを シェイクする
カクテルグラスに注ぐ
ライムの香りが爽やか


 

China Blue

氷を入れたコリンズグラスにライチリキュール、グレープフルーツジュースを入れて、ステアーする。その中に、ブルーキュラソーを静かに沈める。
見た目も、味も、エキゾチック。